「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第34話
環境整備編
<街道整備>
この世界への転移した日から一ヶ月と数日。この短いようで長い間にイングウェンザーを取り巻く環境は少しずつ変わり始めているのだけれど、アルフィンを除く自キャラの面々はあまりその事を気にする事はなく、相変わらずのほほ〜んと生活していた
前回の終わりからほんの少しだけ時間は遡る
「これからの事を考えると、城からボウドアまでの道は一日も早く完成させないといけないわよね」
面会解禁日から2週間程たったある日の午後。イングウェンザー城の地下6階層にある会議室にある円卓にはアルフィンを中心とした自キャラたち6人と各統括責任者3人が集まり、久しぶりに都市国家イングウエンザー首脳会議(仮名)が開かれていた。その議題はこれからの行動指針を決めると言うもので、誓いの金槌のギルド旗の前にある他のものより少しだけ豪奢なギルド長の椅子に座るアルフィンは円卓についているメンバーを見渡しながら、今現在いくつかのやらなくてはいけないと想定されている物の内で自分が最優先で行わなければいけないと考えている街道整備の提案をしていた
「どうして? ボウドアから5キロくらいの道はもう出来上がっているんでしょ? それだけ離れればゲートを開いて移動しても誰からも見られる事はないのだからそれほど急いで残りの街道を整備する必要は無いように思えるけど」
「あらシャイナ。あなたはゲートの魔法が使えないのだから道が無いと不便なんじゃないの?」
この城にいる者ならば当然持つであろう疑問とも言えるシャイナの意見だけど、それはゲートを使えるものが言う事のような?
「確かに私はゲートの魔法は使えないけど空を飛べばそもそも道なんて関係ないし、地を走って移動するにしても使うのはいつものアイアンホース・ゴーレムだから草原のままでも何も関係ないよ」
「そうよね。この間作った馬車なら最悪草原のままでも走破できない事はないし、シャイナの言う通りあたしも街道作りは後回しでもいいと思んだけど、マス・・・アルフィンはなぜそう考えるの?」
シャイナの意見を聞き、それを補足するような感じで自分たちが作った馬車の性能を挙げて、なぜ必要のなさそうな街道整備を最優先しなければいけないのかとあやめが私に聞いてきた。確かに私たちが使うという点でだけ語るのならば街道は必要ないのよね。ではなぜ私が必要と感じているかと言うと
「確かに私たちにとっては道なんて必要ないかもしれないわね。でもね、今作らなければいけないと考えている道は私たちが使う為に必要な訳じゃないのよ。この街道はこの世界の人たちの為に作るの」
「あるさん、それはユーリアちゃん達がこの城に来るのに使うって事?」
この世界の人と聞いて、まるんは真っ先にボウドアに住む自分の友達を思い浮かべたみたいね。でもそれは違うんだなぁ
「ん〜、ユーリアちゃん達ならボウドアの村の外れに作った館で遊べるのだからわざわざこの城に招く必要は無いし、もし招くにしてもあの子達なら館の転移門の鏡を使ってもらっても私はかまわないと思ってるわよ」
「違うのか。なら誰が使うためなんだろう? 他にこの城に来そうな人っていないよね」
そう、今までで会った人の中にはこの街道を使う人は多分居ないと思う。エントの村の人たちとはこの世界に転移した初日以降会っていないし、ボウドアの村の人たちが私たちに何か用事があれば館に居るメイドたちに話せば伝わると言う事を知っているから、30キロ以上離れたこの城まで訪れる事は多分ないだろう
ではなぜこの街道が早急に必要だと私が考えたかと言うとね
「それはね、これから会う人たち。たとえば近いうちに会いに行こうと考えているこの地域の領主やその部下、それにこの先行くであろう町の商人たちが通る道を作らないといけないと思うからなのよ」
「ああなるほど。でもあるさん、道なんて魔法を使えばすぐにできるよね? なら領主に会いに行ってからでもいいんじゃないの? なのになぜ最優先に?」
「そう! あたしもそう思う! やらなければいけない事の多さに比べて私たちの人数は限られるんだからそんな簡単にできることは後回しでいいじゃない」
まるんの発言にあやめがすかさず乗って来る。う〜ん、あやめの奴、街道を作るとなるとその作業に一番向いている魔法体系の自分にお鉢が回ってくるだろうから、何とかやらずに済むように反対してるな。後回しにしても最終的にはやらないといけないのだから先送りにしても意味がないのに
まぁ、彼女の気持ちも解らないではない。道を作るというのは単調な作業で苦労の割に退屈な作業になるし、その上、村から城まではかなり距離があるだけに時間もかなり掛かる事だろう。飽きっぽいあやめとしては早急に作るのではなく、5キロ刻みぐらいで暇を見てはやると言うような作業にしたいのだろう。でも、今回はそうは行かない事情があるのよね
「すぐに必要とならないのであればゆっくり造ってもいいと私も思うけど、多分そうはならないと思うのよ」
「なぜだ? 俺もいつかは必要だろうとは思うが、街道開通をそれほど急ぐ必要性は今の所感じないが」
自分にはあまり関係ないだろうと黙っていたアルフィスも私の言葉に疑問を持ったのか理由を聞いてきた。そしてその意見に賛同するように、真剣な表情で私を見つめる自キャラたち。それに対してメルヴァとギャリソンは理由が想像できているようで、二人とも「すべてアルフィン様の御考えの通りに御進め下さい」とでも言いたそうな顔で微笑みながら黙って座っている。まぁ、彼らなら私が考える事くらいは簡単に思い付くだろうね。因みにセルニアはと言うと、私には難しい事は解りませんとでも言うように、呆けた顔でお茶を飲んでいる。同じNPCでもここまで違うものかねぇ。まぁ、そのように性格付けして作ったのは私なんだけど
その対比がおかしくて噴出しそうになるけど、このタイミングで笑い出すのもおかしいのでじっと我慢。気を引き締めるように真剣顔を作ってアルフィスたちに説明をする
「なぜ早急に必要なのかと言うとね、それは私たちが今まで色々な事をやりすぎてしまったからなのと、本来はもっと早く訪れるはずだった領主の館へ訪問が大幅に遅れてしまったからなのよ」
?????
私の返答を聞いて一斉に頭の上にクエスチョンマークを浮かべる自キャラたち。まぁ待ってよ、これで説明が終わった訳じゃないんだから、あわてないあわてない
「本来は相手に何も情報が行かないうちに訪問するつもりだったんだけど、最初はエントの村での事を利用する為に訪問を延期して、次にボウドアの村の騒ぎがあったからこれまた延期。そして収監所の運営や面会のお膳立てなどをしているうちにかなりの時間が経ってしまったのよね」
「ああ、確かに時間は経ってるな。だが、それと街道整備を早急に進めないといけない理由とが俺には結びつかないんだが?」
周りを見渡すと自キャラたち全員が解ってないみたいで、みんなアルフィスの言葉に同意するように、はてな顔で頷いている。う〜ん、ここまで言えば解りそうなものなんだけどなぁ、全員私なんだし
この世界に来て一月以上たって各自それぞれの経験が違ってきているからなのか、この頃はこの世界に転移してきた頃に比べて私が思いつく事をみんなが思いついてくれると言う事が少なくなってきている気がする。個性が出てきたと言う事なのだから会議の時は色々な視点での意見が出るようになっていいような気もするけど、こう言う場合はいちいち説明を挟まなければいけなくなってしまったから少し面倒な気もするのよね
それと、ここまで思考の差が出てきたとなるとNPCに何か指示を出す時はあらかじめ自キャラたちで意見のすりあわせをしてからやらないと、意見の相違によって困った事が起こってしまう可能性があるかも。同じ私なのだからきっと解ってくれるという甘い考えはそろそろ捨てなくてはいけないかもしれないわね
「それで、なぜそんなに街道整備を急ぐんだ?」
「あっごめん、それはね」
そんな事を考えていると、説明途中で黙り込んでしまった私にアルフィスが説明の続きを求めてきた。いけない、いけない。どうも私は何かを考え始めると今までの事を忘れてしまう傾向があるなぁ。女性と言うのは男性と違って一度に複数の事を同時進行で考える事ができると前にテレビで見た事があるけど、こういう所だけは私の場合男のままなのかもしれない。っと、また別の事を考えていると怒られてしまうので話を戻そう
「時間が経つにつれ、私たちの情報は領主に伝わっていると思うのよ。何せやっている事が派手だからね。最初の村、エントでは私の不注意で商人と名乗ったにもかかわらず、小さいとは言え情報の対価としてはあまりに高すぎる宝石を渡してしまって、それにしては金銭感覚がおかしい事が伝わったと思うの。この人って傍から見るとかなり怪しい人物よね」
私なら、この話を聞いたらこの人物が何者なのかと警戒するわ。まぁ、行った事を考えると怪しいだけであまり頭が良くなさそうだし、あからさまな危険人物とも思わないだろうけど。うう、改めて検証するとホント私ってなんて考え無しなんだろう
「まぁ、これはその後のボウドアの村で都市国家の支配者だと自己紹介したからそれが伝われば納得しそうな気もするのだけれど、これってあくまで私とそのエントの村に現れた奇抜な衣装の自称商人が同一人物だと確信が持てた場合だけだから、自分でその二人は同じ人物ですと名乗り出なければ複数の未確認の勢力が入り込んだと考えるかもしれないのよね」
冷静に考えると魔法少女コスの自称商人は一人でエントの村に訪れたけど、都市国家イングウェンザーの支配者である私は色こそピンク基調で同じではあるけれど、ボウドアの村を訪れた時はお姫様っぽいドレスにティアラまでつけて、おまけに大きくて豪華な馬車と執事とメイドを引き連れて訪れたのだから普通に考えてこの二人が同一人物と考える者は居ないだろう。まぁほぼ同時期に、それも狭い地域で現れたのだから同じ組織に所属していそうだというのは考え付きそうではあるけど
「それにシャイナたちの戦闘力も問題になると思う」
「えっ? 私たちの?」
話が自分の方に飛んでくるとは思っていなかったのだろう、シャイナが呆けた顔で聞き返してきた
「そうよ。エルシモさんとの会見で解った事なんだけど、彼らってこの世界ではそこそこ強い存在らしいのよ。少なくとも街道を巡回している兵士程度では彼らを捕らえる事はできないらしいわ。そんな強い野盗たちをシャイナとセルニアの二人で捕らえたのよ。おまけに騎士然としたシャイナではなくメイドのセルニアがどう考えても野盗たちより強いアイアンゴーレムを素手で倒しちゃってるし。まぁ、こちらは村の人は誰も見ていないらしいから問題は無いと思うけどね」
「なるほど、それほど強い存在が現れたというのなら大事件だし、それが他国の騎士とメイドでなおかつその国の支配者まで一緒に現れたとなるとその情報を手に入れた者はどんな目的でその集団がその場所に現れたのかと疑問に思うのは当然か。それに、その情報を手に入れたのがこの地を収める領主なら尚更警戒心も湧くってものね」
そう。これが冒険者だと言うのなら誰も気にも留めないだろう。世の中には彼らより遥かに強いといわれる冒険者が居るそうだから。でも問題なのは、彼らを一蹴した存在が都市国家とは言え他国の騎士だと言う事。そして
「これもエルシモさんからの情報だけど、彼個人の実力はこの国の皇帝を守る近衛騎士団に入ってもおかしくないレベルなんだって。これってかなり不味いでしょ」
「あの程度で近衛騎士団って・・・。でも確かにそれはちょっと不味いかもね」
ここに来てシャイナも街道を作らなければいけない理由に思い当たったらしい
「ここまで話せばある程度解って貰えたと思うけど、私たちの戦力って傍から見るととても強大なのよ。ではそんな存在がすぐ近くに住み着いた場合、普通はどうするか?」
「俺なら偵察隊を組んで調査するな」
そう、私でもそうする
「それでこの城に誰かを差し向けたとして、途中に道がなければおかしいと思うんじゃないかなぁ? 草原だから歩いてならたどり着く事はあるだろうけど、私は馬車でボウドアの村に訪れたのよ」
「なるほどな、それで馬車が通れる街道を早急に整備する必要があるというわけか」
アルフィスの呟きに皆、納得したように頷く
「幸いここは草原地帯だから、特殊な偵察技術のない領主子飼いの兵士や騎士では周りに隠れる場所がないこの城をこちらにばれない様にこっそり偵察するなんて事はできないだろうし、強大な力を持ち、なおかつもしかしたら危険かもしれない相手に敵対行為ととられるような事は誰でもしたくはないから実際そんな迂闊な事はやらないと思う。ではその技術を持つ冒険者で偵察をしようと考えるだろうけど、ボウドアの村長の話からすると町も少し離れているから偵察に冒険者を雇うにしても時間が掛かると思うのよね。だからそれまでに街道を整備してしまおうと思ってるの。どう? 私が街道整備を最優先しないといけないと思った理由は解って貰えたかしら?」
「解ったよ」
質問していたアルフィスを筆頭に、全員が納得したと頷く。当然その作業をメインで任されるあやめもね
「それではあやめ、納得してもらった所で作業責任者に任命するからお願いね」
「うげっ、やっぱりそうなるのか。でもまぁ仕方がないわね、まるんの魔法では草原を焼き払う事はできても道は作れないし、あいしゃのゴーレムでは目立つ上に時間も掛かりそうだからあたしがやるしかないのは始めから解っていたし」
しぶしぶとは言え納得してくれたあやめに「お願いね」と頼んだところで次の議題に移る
「街道整備はこれで片付いたとして、他にもいくつかやらないといけない事があるのよ」
「えっ何? あたしはこれで手一杯だからもう何も引き受けないわよ」
私の言葉にこれ以上仕事を増やされてはかなわないと反応するあやめに「大丈夫だよ」と手で合図を送ってから、改めて全員を見渡し
「これもエルシモさんとの会見で思いついたんだけど」
次の議題のメインとなるシャイナとアルフィスの方を見つめながら、アルフィンはそう口を開いた
あとがきのような、言い訳のようなもの
新章突入です。とりあえず章の名前を環境整備編としますが、これはこの章が終わった時点で変えるかも知れません。と言うか、章自体が短すぎて次で終わってしまうかもしれません。その場合は次の章と統合する事になるかも
また、今回はちょっと短いです。と言うのもここが切りがよさそうだったので。今回の章はあくまで次の領主の館訪問の準備話なので書く内容が少ないんですよね。かと言って1話にまとめるにはちょっと長そうだったのでこのような形になっています
あっ待てよ、どうせ環境整備で章分けしたのならボウドアの館の話もここに入れようかなぁ? でもそうするとまた領主の館への話が先送りになってしまう。どうしたものか
途中であやめの魔法体系が道を作るには一番向いていると書かれていますが、これは精霊を召還して地形を変える事ができるからで、この力を使えば比較的簡単に道を作ることが出来ます
ただ、この魔法では舗装ができないので最終的にはクリエイトマジックで作った石版をあいしゃのゴーレムで敷き詰めるなんて工程を経て道を完成させるので、本当の意味でこの街道が完成するのは結構先になります。普通の馬車や歩きでは一日で30キロ以上も移動するのは大変なので、途中で休憩するための宿屋も必要になりますからね。まぁ、この時点では野営用に草を取り払った更地を途中にいくつか作ってあるだけですが
修正報告
最初、エルシモの名前がエルシオだったことが判明。でも流石に今から戻るのは大変なのでエルシモに統一しました
来週は土日出張なのでもしかするとこちらの更新が月曜日になってしまうかも知れません。ハーメルンの方は日曜日にちゃんと更新するつもりですが、こちらは一から書かないといけないのでもしかすると間に合わないかもしれないので
まぁ疲れてへろへろだった場合はハーメルンの方まで月曜日になってしまうかもしれませんが